田辺聖子著の「孤独な夜のココア」という本を読んだ。12の短編集から成り、どれも20代の女性が主人公の恋愛小説だ。私は32歳だから、彼女達より上だけれど、読んでいて、幾度か自分と重ね合わせることがあった。
私が気に入った作品は、「春つげ鳥」と「ひなげしの家」のふたつだ。「春つげ鳥」の主人公は22歳の碧。44歳の笹原さんという恋人がいる。彼には別居中の奥さんと子供がいて、子供が大学を卒業する2年後には奥さんと離婚して、碧を結婚をする予定でいる。笹原さんはそれまで、碧と一緒に暮らすための家を買い、ふたりは同棲を始める。そしてふたりは、がらんどうの新居に、必要なものを買い物に行く。
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「お茶の道具と、コーヒーカップ、それにお箸、どんぶり」
「何するねん、どんぶりなんか」
「ラーメン食べるでしょ」
というと笹原サンは笑い出した。
「グラスを忘れんようにしてくれ、酒の」
「タオルや歯ブラシは?」
「あるわけないでしょ、ホテルと違うんやから!」
コマゴマした買物が、じつにたのしかった。
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このくだりで、私は一度本を閉じてしまった。痛いほど、碧の気持ちがわかったから。こういう生活感のある買物って、生活を共にしないと買えないもので、恋人と一線を越えた証拠だからだ。エンディングもすばらしかったけど、この部分が私のこころに深く残った。
「ひなげしの家」は、主人公の叔母さんである38歳と枝折と彼女の連れ合いである42歳の正彦のお話。お互いに遅くなって知り合ったので、いっときでも長く一緒にいたい、というふたり。姪である主人公が、ときどき目のやり場に困るくらい、ふたりは仲がよかった。でもその叔父さんが病気にかかってしまうところから、物語は急展開する。
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わたしは生涯のうち、いくつになってもいいから、双方から愛し愛される恋にめぐりあいたいと思っている。片思いの恋や、条件つきの結婚ではなく。そんな恋は、もしかしたら叔母さんみたいに、四十や五十になってから、やっと訪れるものなのかもしれない。
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私はここで涙が出た。あまりにも美しすぎたから。そして、私も幾つになっても、こういうホンモノの恋をしていたい、と思った。
あと30分もすると、アメリカへ10日ほど里帰りしていた恋人が、成田に着いてからすぐに、松本行きの高速バスに飛び乗って 、わたしのもとにやって来る。わたしの大好きなひと。思いっきり抱きしめてあげたい。お帰りなさいって。
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