Friday, September 6, 2013

文芸評論:関谷英里子著「その英語こう言いかえればササるのに!」を批評します



関谷英里子著「その英語こう言いかえればササるのに!」青春出版社 (2013年8月15日発行)

また残念な本が出てしまった。関谷恵里子さんという通称「カリスマ通訳者」が最近出された本だ。彼女はこの本の中で様々な「日本人がおかしがちな」「間違った」英語を取り上げては、こう言いかえた方がネイティブには通じやすい、と「ネイティブ」目線の添削を繰り返す。

例えば、
日本人が言いがちな間違いとして、
×"Today, thank you for your time."
を挙げています。
今日は、お時間をありがとうございます。」

このくだりを読んだ時の私の第一声は、「この文の何がいけないの???」でした。
関谷さん曰く、Today, と切り出すと今日は特別なアナウンスがあるのかと周りは少し構えてしまうらしく
"Thank you for your time today."
のほうがすっきりする、と添削されています。

一言いいですか?BIG DEAL!!
Todayが先に来ようと後に来ようと何の問題もなく通じます。あれ、先だっけ、後だっけ、どっちだったけな、なんて心配しているうちに肝心なお礼を言うのさえも忘れてしまうかも知れません。Todayが先に出て来ちゃったらそのまま胸を張って言えばいい。Todayと言ったからって、何かアナウンスがあるのかな?なんて誰も構えません。構える人がいたっていいじゃないですか、勝手に構えさせておけば!

他の例は、
×"I'm sorry for your worry."
という日本人が言いがちな文を挙げて、こう訳しています:
『心配してくれて残念です』

まず、この訳は大きな間違いです。sorryは確かに「残念だ」という意味もありますが、この場面では100%「心配をかけてごめんなさい/すみません」の意味で取られるでしょう。

そして関谷さんの添削がまたすごいんです:
"Thank you for your concern."
 「心配してくれてありがとう」
と言ったほうがスマートです、と書かれています。

ここで関谷さんは"I'm sorry"と謝りたい日本人に対して、「心配してくれてありがとう」の方がスマート、と言っているのです。
もう一度いいですか、みなさん、日本人はとにかく謝りたいんです。心配かけてごめんね、って言いたいんです。決して、心配をかけてしまった相手に、心配してくれてありがとうなんて言いたくないんですよ。
これはもう日本文化のひとつじゃないでしょうか。大きなことを言ってしまうと、そういう人種なんです。謝りたいんです。
それと比べてアメリカ人は違いますよ、なかなか謝りません。謝ったら負けだからです。自分が間違っていても謝ったらダメなんです。裁判で訴えられちゃった時に損だし。
ここで関谷さんが言っていることは、日本人に、アメリカ人みたいになりなさい、って言っているも同然なんです。
確かに"I'm sorry for your worry"は不自然な英語なので、本人の意を変えずに直すとしたら、
"I'm sorry for making you worry"ですかね。でも、これもBIG DEAL!!です。
I'm sorry for your worryって言ったって100%通じます。

関谷さんは本の冒頭で、こう自負されています:
「いまは英語は何もネイティブスピーカーだけのものではありません。私は海外はアメリカ、イギリスはもちろんシンガポール、香港、インド、オーストラリアなどのアジアパシフィック地域やフランスやドイツなどのヨーロッパ諸国、イスラエル、クエートなどの中東諸国の人と英語で仕事上のコミュニケーションを取っています。」

ここでまず問題なのが、「ネイティブスピーカー」という言葉。イギリスやアメリカで80年代に生まれたWorld Englishesという分野では最もタブーな言葉です。というのは、シンガポールや香港、インドに住む人達も英語を生活の手段として使っているので、インド人だって立派な英語のネイティブスピーカーなのです。ところが、ここで関谷さんが言うネイティブスピーカーは、何処の国の人のこと指しているでしょう?イギリス、アメリカ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドなどでしょう。英語はもはやイギリスやアメリカなどInner Circleの国のみに属するものではなく、英語を使う全ての人々に属するものなので、色々な英語が存在してもいい、その多様性を認めていこう、というのがWorld Englishesの根本的な考えです。アメリカではアメリカ英語を話し、インドではインド英語を話す、それでいいのです。

関谷さんは、仕事上色々な国の人達と英語でコミュニケーションを取られているわけですから、必然的に色々な訛り、表現やボキャブラリーに日々接しているはずです。そして、その国や地域独特の英語であっても、理解しようという姿勢をお互いに持っていれば、必ず通じ合えることも、身をもって経験されているはずです。ああ、インド英語はアメリカ英語とは違って、こういう時にはこういう言い方をするんだ、と学ぶ事も多いはずです。それなのに、それなのに、日本人の話す英語を日本語英語を認めようとせずに、「間違い」にしてしまう。もったいないとしか言いようがありません。日本人は日本独特の日本語英語を堂々と話せばいいのです。話す相手に理解してもらおう、という姿勢と、話す相手が理解しよう、という姿勢があれば必ず分かり合えます。なにもアメリカ人やイギリス人の真似をして「完璧な」英語を話さなくてもいいんです。だって、「完璧な」英語なんてもう存在しないんです。インド人が話すインド英語を「完璧じゃない」なんて言う資格はもはや誰にもありません。だって、英語はイギリスという国を飛び出した時点で自由の身になったも同然なんですもの。

最近この手の日本人の「残念で恥ずかしい英語」が取り上げられて、本にされてしまって、しかもそれが売れてしまう傾向があります。こういう本を読んで英語を学ぶ人や仕事で英語を使う人は「ああ、こう言わなければいけないんだ」とか「日本語から直訳したような表現では通じないんだな」なんて思って、ますます英語を使うことに消極的になるのではないでしょうか?または、この本で添削された表現を丸覚えして、いわゆる「ネイティブ」が話すような「ソツのない」「つまらない」「色彩のない」「個性のない」英語を使う事に一生懸命になって、肝心な「本当に伝えたい事」が伝えられないままになってしまうのではないでしょうか。

私は声を大にして言いたい!日本人らしい、日本文化を背負った、日本人独自の色彩を放つ英語をもっと胸を張って話そうじゃないかって。アメリカやイギリス目線でしか物を言うことができないほうが、もっと恥ずかしい。もっと自分の意見を持って、どうやってそれを自分らしく伝えようか、という事にフォーカスしたようがいいと思います。そして英語云々はさておき、自分の意見を持っていないのが、一番恥ずかしくて残念なことだと思います。

2 comments:

  1. なおさん、かっこいい!!♥
    私、今、ポリサイのクラスをとっていて、英語の間違いが気になって、みんなの前で話すのが、毎回すごく怖かったけど、これ読ませていただいて勇気出た!!伝えたいと思う気持ちがなにより大切ですね。この本の著者だけでなく、コンサーバティブなここの人種にも、こういうこと、わかっていただきたい。ここのモールや旅行先とかで、英語話せないけど一生懸命伝えようとしてるアジア人が、アメリカ人の店員さんとかに、ないがしろに扱われてるのを見ると、悲しくなります。World Englishesの精神、どうか世界中に広まって欲しい。

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  2. 優子ちゃん!ありがとう♥
    アジアの人達が話す英語だって、理解しようという気持ちさえあれば、絶対に伝わるはず。
    聞く耳を持ってくれるかくれないか、だよね。
    そうだね〜、World Englishesの世界はまだまだ知っている人が少ないから、もっと広めたい!
    優子ちゃんも「何を伝えたいか」に焦点を置いて、堂々と話したらいいよ!
    頑張れ!!

    こないだマイクとスーツ買いに行ったんだけど、そこの店員がマイクの試着したズボンを見ながら
    しきりに「ぐすいですね〜。これもぐすいし。」と「ぐすい」という言葉を連発してきて、コンテクストから判断して、多分「ゆるい」という意味なんだと二人とも理解できたよ。

    でも私達は彼があんまり堂々と「ぐすい」って言い放つもんだから、『きっとこれは何か私達が知らない新種のワカモノ言葉なんだろう』って思っちゃったくらい!堂々と連発すれば方言も伝わるっていうのも実感したよ。

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